第71回中学校の部 優秀作品

「レイチェルから私へ」
 秋田県大仙市立仙北中学校 2年 佐々木綸

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 私は中学二年生になった今でも、虫捕り網と虫かごを持って近所の空き地に出かけ、虫の生態を観察することを楽しみにしている。両親からは「まるでファーブルのようだね。」とよく言われる。そんな私が、『センス・オブ・ワンダー』を手に取ったのは自然なことだったのかもしれない。気がつくと自分とやや重なるエピソードが書かれたこの本を手に取り、何度も何度も読み返している。

 自然科学者のレイチェル・カーソンが幼い甥のロジャーと共に冒険に出かける。目的地は、ある時はメイン州の森林、またある時はビーチと様々だ。そこで二人が植物や浅瀬の生き物などを観察した経験を基にして書かれている。その描き方は非常に幻想的でかつ楽しげだ。嵐の夜の海辺も、雨の日の森の道も、もちろんクリスマスツリーゲームも。二人の行くところが全てが遊園地のようで、とても微笑ましい。全体を通して述べられているのは、センス・オブ・ワンダー、つまり驚きと不思議に開かれた感受性の大切さだ。この本を読むことで私は、人生におけるこの感受性との向き合い方について考えを深めることができた。

 この本の中で特に印象に残っているのが、センス・オブ・ワンダーを育み、保つことに関する二つの内容だ。一つ目は、幼い頃に素直な感性で自然と触れ合うことの重要性だ。私は最初、なぜ博学なレイチェルがロジャーに対して、生き物の知識を教えず、一緒に冒険を楽しんでいるのかが疑問だった。しかし、「知ることは感じることに比べて半分も重要ではない。」という言葉に出会い、その行動の理由が、ロジャーに未知の状態で自然と触れ合わせ、感情を呼び覚ます経験を積ませることにあると分かった。先に知識を与えられた上での体験は知識の答え合わせとなり、それでは自然に対する新鮮な驚きや不思議な感覚が失われてしまうからだ。私が幼稚園の頃、家の裏の畑に生えているカタバミの形状が、場所によって異なることをただただ不思議に感じ、「なぜか」という疑問をもって連日畑に行って観察をしていた。今考えてみると、スマートフォンやタブレットを扱えなかった当時の私の行動は、自然に対する感受性を育む一種の冒険だったのだと思う。二つ目は、「いま、これを見るのが、人生で初めてだとしたら?」「もし、これを二度と見ることができないとしたら?」という問いかけだ。レイチェルは、これを大人が自らの感覚の経路を開き、これまでに見逃していた美に目を開くために自らに問うべき内容だとしている。私も年齢を重ねていくにつれて、日常のやるべきことに追われる中で自然に対する感受性が鈍っていき、目の前の出来事をありふれたものと見なしてしまうのかもしれない。この先の人生でそんな時が来たなら、この問いかけをおまじないのように行うことで、自分の感受性を保ちたい。

 この作品が生まれた背景について考えてみた。『沈黙の春』で生物濃縮による環境破壊を警告したレイチェルが、ガンが進行する中で著した最後の作品であり、未完の著作だ。ここで主張した内容が、センス・オブ・ワンダーの大切さであったことには大きな意味があるはずだ。自分がいない未来に生きる人々が自然を畏れ、不思議に思う感受性をもち続けることや、さらにはその自然を愛し、守っていくことを期待したのだと思う。その一方で、この作品が世に出てから七十年ほど経過した現代は、科学技術が発達して便利になる反面、多くの地球環境問題が進行している。また、レイチェルの言葉を借りれば「人生に退屈し、幻滅する」ことや「人工物ばかりに不毛に執着していくこと」が盛んに見られるようになってきた。作品が生まれた背景と現代の状況を照らし合わせると、現代は残念ながら、レイチェルの理想からは最も遠ざかっているが、だからこそこの作品の伝えてくれるメッセージがもつ意味はますます深まっているといえる。そして忘れてはいけないのは自然は今も昔も私たちのすぐそばにあり、いつでも私たちに、触れ合いによる大きな喜びを与えてくれるということだ。

 私は今、砂漠で植物を育てるためにはどんな工夫が必要か、というテーマで探究活動をしている。もともと動物や虫が好きだった私がこの本と出会い、砂漠化の進行を止め、地球環境を守るためにできることは何かと考えた末のことだ。砂漠化や植物の生育に関する資料を集めることに始まり、今では石膏の量と除塩の関係性について、実際にハツカダイコンを使用して実験をしている。今やレイチェルから受け取ったセンス・オブ・ワンダーという名のバトンは、私を具体的な行動へと駆り立てている。私のようにこの本に影響を受けた人たちは世界中に数え切れないほどいるはずだ。そういう仲間の存在を意識するとどこか嬉しくなる。

 さあ、今日もまた空き地に出かけよう。

 

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●読んだ本「センス・オブ・ワンダー」(筑摩書房)
レイチェル・カーソン・著 森田真生・訳とそのつづき 西村ツチカ・絵

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