第67回高等学校の部 優秀作品

「世界を変えるために」
 富山県立富山中部高等学校 2年 北林愛里咲

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 私は医師になることを目指している。しかし最近、大学受験のための勉強が将来何の役に立つのだろうかと疑問を抱くようになり、何のために必死で勉強をしているのか、本当に自分は医師になりたいのか分からなくなり、勉強に対するやる気を失っていた。そんなとき、図書館の一角で微笑む少女に出会った。名前はマララ、十六歳。私は、七年前に国連本部において演説する彼女の姿がテレビで放映されていたことを思い出した。私と同じ歳の少女がなぜ、全世界を前に怖気づくことなく、あのような力強いスピーチができるのか。命の危険にさらされながら、教育の大切さを訴え続けることをやめなかった彼女の芯には何があるのか、私は強烈に知りたいと思った。

 この本を読んで、マララに大きく影響を与えたものが二つあることに気づいた。一つ目は、学校へ行けない子供たちとの出会いである。マララがまだ小学校低学年の頃、近寄ることもできないほどの悪臭を放つごみの山で働く子供たちに出会った。マララはこれらの子供たちを学校に通わせてほしいと父に頼んだ。なぜなら父は学校の経営者で、家庭の事情で学校へ行くことが困難な子供たちを無料で自分の学校に通わせていたからだ。しかし父は、ごみの山で働く子供たちは働かなければ、たとえ授業料が無料でも家庭が飢えることになると説明した。私は、この出会いがマララの信念の土台を作ったのだと思う。なぜなら、彼女の心から、これらの子供たちをすべて学校へ通わせてあげたい、という思いがずっと消えることがなかったからである。

 二つ目は、自分自身が学校へ通えなくなった経験である。マララが小学校五年生の頃、彼女が住んでいた町はタリバンに支配され、政府軍との戦いで町は破壊され、学校は閉鎖された。後に学校は再開されたが、タリバンは五年生以上の女子が学校へ通うことを禁止した。このタリバンの妨害によって、学校へ行くことが、ただ勉強に時間を費やしているというだけではなく、未来を作るためにあるのだということにマララは気づいた。その未来とは、自分の未来だけではなく、自分が暮らしている地域の未来、国の未来、世界の未来でもある、とマララは確信したに違いない。なぜなら、このときから彼女はタリバンの迫害を恐れず、子供たちの教育を受ける権利を守るために、その大切さをメディアを通じて国内外に発信するなど自分のできる限りのことをするようになったからである。

 マララは自分のあげる声にどれほどの力があるかに気づくようになったが、その言葉の力を、彼女は「世界を変えるための闘いの武器」と言っている。ごみの山で働く子供たちとの出会いや、タリバンによる学校の破壊や女子教育の妨害によって、変えなければならない世界があることや、最も大切なものは何かをマララは知った。彼女の芯にあるのは、「教育こそが世界の未来を作る。だから、すべての子供たちが教育を受けられるように、世界を変えなければならない。その闘いのために自分の力をすべて捧げる。」という信念なのだと私は思った。

 マララが国連本部で行ったスピーチの全文を読み、私は涙が止まらなくなった。彼女の言葉が私にこう迫ってきた。「戦争や貧困、無知、病気によって苦しむ大勢の人たちがいる世界があることを忘れないで。自分の中にある無限の可能性を信じ、知識という武器を持ち、強くなってください。そして、このような世界を変えるために共に闘いましょう。」

 私がなぜ、小学校の頃から医師を志すようになったか。それは、私が最貧国の一つと言われるバングラデシュで育ち、病気になっても十分な医療を受けられずに苦しむ人々を幼い頃から大勢見てきたからだ。私も、変えなければならない世界があることを知っていた。そのことに、マララのスピーチは気づかせてくれた。私は、苦しむ人がひとりでも多くこの世界からいなくなることを願って医師を志したのだ。私にとって医師になることは、変えなければならない世界に向き合い闘うことができる、ひとつの生き方である。私が今、もがきながら勉強をしているのは、医師という職業に就くためだけではなく、苦しむ人の役に立つために必要な知識を蓄え、世界を変えようと協力して奮闘するマララたち仲間の一員になるためでもあるのだ、と思えるようになった。「変えるべき世界から目を離さず、苦しむ人に寄り添い続ける。」この思いが私の中のゆるがない芯となり、生き方となるように、自分の中にある可能性を信じ、今与えられている恵まれた教育の機会を最大限に生かして知識という武器を身に着けていきたい。マララがごみの山で出会った子供たちを助けようとして友人に語った言葉が今後の私の支えとなるだろう。「わたしがひとりかふたりを助けて、ほかの人が別のひとりかふたりを助ける。そうやってみんなが力を合わせれば、子供たちみんなを助けてあげられる。」

 

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●読んだ本「わたしはマララ 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女」(学研パブリッシング)
 マララ・ユスフザイ、クリスティーナ・ラム・著 金原瑞人、西田佳子・訳

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