第66回小学校高学年の部 最優秀作品

「六郎さんとの約束」
 徳島県阿南市立見能林小学校 5年 土井優輔

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 「バイビー。また明日。」

ぼくの通学路には、いつも、そう言って友達と別れる場所がある。今日も楽しかったなあ。明日は何をして遊ぼうか。「明日」が来るのを楽しみにして、ワクワクしながら家へ帰る。

 昭和二十年八月五日の夕方、公子ちゃんも、きっとぼくと同じ気持ちだったに違いない。大好きな兄の英昭くんと、次の日何をして遊ぼうか、「明日」を心待ちにしていたはずだ。戦争中であっても、令和の時代に生きるぼくと同じように、「明日」が当たり前にやって来ることを信じて疑わなかっただろう。

 そのことは、公子ちゃんの父である鈴木六郎さんが大切に撮りためていた、たくさんの家族写真が教えてくれた。ピクニックや海水浴、ペットとじゃれ合う何気ない生活の風景。戦争中とは思えないくらい希望いっぱい、笑顔いっぱいの温かな日常があったことを知って、とても驚いた。そして、ページをめくるたびに、ぼくは自分の家族を重ねていった。

 ぼくの両親も写真が大好きで、いろいろな家族写真を残してくれている。キリッと真面目な写真や、思わず吹き出してしまいそうになるおどけた写真。公子ちゃん一家の日常はぼくの家族にそっくりで、親近感がわいた。

 でも、そんなぼくのおだやかな気持ちは、読み進めるうちにだんだんと重苦しくなっていった。平成生まれのぼくは、彼らを待ち受ける運命を知ってしまっているからだ。公子ちゃんたちの笑顔を見れば見るほど、胸がギュッとしめつけられるような気持ちになった。

 その時は突然やって来た。真っ黒な背景に、不気味で巨大なきのこ雲が、もくもくと空に立ち上っている光景を最後に、公子ちゃんの語りが止まり、彼女が楽しみにしていた「明日」や、ぼくが親近感を抱いた温かい家族の存在は、一瞬にしてプツッと消えてしまった。しばらく呆然とした後、例えようのない悲しみがぼくを襲った。このような悲劇は、二度とくり返してはいけない。心からそう思った。

 そのために、まずは原爆についてもっと深く知ることが大切だと思い、この夏、家族で広島に行く決心をした。胎内被爆者で、ピースボランティアの三登浩成さんと一緒に、爆心地周辺のフィールドワークをしたり、平和記念資料館へ足を運んだりした中で、ぼくは、追悼平和祈念館の原爆死没者名簿で、鈴木六郎さんのお名前を見つけたことが忘れられない。この本を通して出会えた六郎さんに、時をこえて直接お会いできたような気がしたからだ。ぼくは、六郎さんの家族や、同じように「明日」を奪われたたくさんの戦没者のことをずっと忘れない。そして、戦争や原爆の事実と向き合い、次の世代へと伝えていく。静かに手を合わせ、六郎さんとそう約束した。

 「バイビー。また明日。」

ぼくは、これからも友達にそう言うだろう。でも、「明日」が当たり前にやって来るとは、ぼくはもう思わない。平和な「明日」は、ぼくたちの努力で守っていくものだから。

 

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●読んだ本「ヒロシマ 消えたかぞく」(ポプラ社)
 指田和・著 鈴木六郎・写真

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