第65回中学校の部 最優秀作品

「まどさんの詩について考えたこと」
 秋田県横手市立十文字中学校 1年 高橋英佑

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 僕は詩が好きだ。中原中也の「茶色い戦争ありました」や萩原朔太郎の「光る地面に竹が生え」。言葉が心にすうっと入り込んできては僕の一部になっていく。「戦争」という言葉を連想したとき、教科書で見た無惨な焼け野原や本で読んだ悲しい実話の数々が思い浮かぶが、中原さんの詩を読んでからは「茶色い」という言葉も僕の中で戦争と強く結びついている。僕の中では、竹の生えている地面は、もはや金色だ。この強く、たった一文で戦争や竹をイメージづけていく力が詩の言葉にはあるから、僕は詩が面白いと思うのだ。

 本屋さんで、童謡「ぞうさん」の作詞家まど・みちおさんのインタビュー本を見つけた。この童謡の印象も強く、「象」と聞くと、まず頭に浮かぶのはクレヨンで描いた親子の象だ。図鑑の長鼻目ゾウ科のゾウを差し置いて。伝える力の凄さ、そしてその浸透力。僕は受け手として詩を楽しむだけだが、作り手のまどさんはどうやって詩を生み出しているのか。

 驚かされたのが、まどさんの観察力と物の見方だ。聞き手の人が、取材当時九十六歳だったまどさんの散歩に同行している。足元のスミレのはじける実や、カラスがくちばしで小枝を折ろうと頑張る姿など、見慣れた景色も発見の舞台だ。まどさんの観察は「なぜそうなるのだろう」と疑問を持つことから始まる。そして、その眼は観察する生き物の「ほんとの姿」を読み取ろうとする。まどさんがアリを書くと、「黒い」「大群」「弱い」ではない。「いのちだけが はだかで/きらきらと/はたらいているように見える」になる。

 また、観察する対象は命あるものに留まらない。漬け物石や湯飲み茶碗の果てにまで詩作は及ぶ。しかも、僕たち人間に劣らない存在として。本を読み進めると、まどさんの型破りな考えに納得させられる。「四十億年の遥か昔に無機の微粒子が溶け込んだ原始の海の中からいのちあるものが生まれ出てきた」のだから、無生物は生物の母親みたいなものだと言う。そして、「私たち生物も死ねば、みんな土に、無機の微粒子へと還っていく。」みんな同じように。そんな宇宙生命学やミクロの世界にまで考えが及んでいたとは。確かに、人体と石の成分は元素の比率は別にしても、酸素やカルシウムや珪素など共通している部分が多い。僕の体の元素の比率を変えると、石にも成り得るということだ。この視点を持ちながら詩を読み返すと、面白さも倍増する。まどさんが作詞した童謡「ふしぎなポケット」を幼い頃に聞いたときには、魔法のポケットが欲しいと思いつつも、ビスケットは割れるから増えるだけではないのかとも思った。だが、今、この視点で考えると、割れて形が変わってもビスケットの成分という本質には何ら変化がない訳で、形や大小の差異などは表面的なことに過ぎないよ、という温かいメッセージとしても僕には聞こえてくる。

 先日、夜中に、窓から廊下に差し込んでいた月の光を見た。静かな中、その光は青白く美しいと思った。なぜ優しい感じもするのだろうと不思議だった。その答えに近づこうとすれば、動物の行動学や心理学、天文学や光を扱う物理学などそれぞれの分野の人がそれぞれの方法で探していくのだろう。それをまどさんは、言葉という方法で「ほんとの姿」に近づこうとしていると僕には思えた。「つきのひかりのなかで/つきのひかりにさわれています/つきのひかりにさわられながら」。月の光に触っているつもりが、月の光やその先の宇宙の優しい大きな手に包まれてもいる。僕が触り触られていた廊下の月の光、ウミガメの産卵を見守る満月の光、月周回衛星「かぐや」を宇宙空間で照らした月の光。みんな、意識しなくても月の光と触れ合っていたのだ。

 まどさんは、心動かされた物に出会うと、その「ほんとの姿」を突きつめて考え、詩という形に表す。そこで初めて、その物の素晴らしさを実感できると言う。詩を書こうとして書いているのではなく、極端に言えば、まどさんにとっての詩は、探究の結果のレポートだと思えてきた。それを短い言葉「詩」という形で残し伝えていく。溢れ出てくる新発見の感動を言葉で「いわずにおれない」のだ。凄い発見をわずか数語で言い当てるのは、山ほどある単語を大きな布で包み、一滴の滴を絞り出すようなものだと思う。そして、その滴は波紋のように広がっていく。世界を見渡すと六千九百もの言語があり、そこにも滴のように生まれた詩が数多くあるはずだ。僕は、日本語というたった一つの言語を使う。まどさんが日本語で詩を書いてくれて、良かった。

 最近、嬉しかったり苛立ったり、言葉で言い表せないような気持ちに時々なる。まずは、自分の気持ちを発見し、それにぴったり当てはまる言葉を見つけていこう。僕が今できることは、僕の中にどんどん言葉を蓄えていくことだ。言葉は僕の周りに溢れているから。

 この夏、僕はまどさんの作る詩について考え続けた。そして、一段と詩が好きになった。

 

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●読んだ本「いわずにおれない」(集英社)
 まど・みちお・著

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