第63回高等学校の部 最優秀作品

「白磁の人になる」
 東京都・田園調布学園高等部 1年 儘田怜実

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 日本が韓国を併合中、朝鮮人は母語である朝鮮語ではなく、日本語を話すよう強制されたり、朝鮮人というだけで日本軍から差別的な暴言を吐かれ、嫌がらせを受けたりした。そのため、朝鮮人は日本人を憎んでいた。しかし、こうした状況下にも関わらず、朝鮮人から厚く慕われ、愛されたのが、主人公の浅川巧という人物だった。この浅川こそが「白磁の人」である。私はこの本の題名を初めて見た時、純白の磁器という意味の言葉である「白磁」に例えられた人とは、一体どのような人なのだろうと思った。また、「白磁」に込められている意味が何か気になった。

 浅川は、朝鮮にいる兄からの手紙の「朝鮮には不思議な温かさのある焼き物があり、それを見ると、無性にお前に会いたくなる。」という言葉に惹かれ、自ら朝鮮に渡る。この手紙の中の焼き物が、李朝白磁であり、浅川と白磁との最初の出会いだった。今でこそ白磁の評価は高いものの、当時の朝鮮では、随分前から評価の定まっていた高麗青磁に比べ、白磁は安価でどこでも手に入るものであった。だが、浅川は、価値が全くないと世間が見向きもしない白磁の美しさに一目ぼれし、白磁の世界にのめりこんでいく。

 一般に、人は、自分の見る目だけでは自信が持てずに、大勢の人の評価を気にしてしまいがちである。私も、自分は良いと思うものでも、人から否定されると、自分の主張に自信を持てなくなり、他人の意見に流されてしまうことがある。だが、浅川は違った。世間の評価よりも、自分の感性や気持ちを信じて、白磁を世に広めることが出来た。このような信念を持って行動できる彼を、私は尊敬する。独自の感性で、白磁の美しさを素晴らしいものだと見出だしたように、浅川には、偏見を持たず、物事を新鮮な目で見て、感じ、扱うという姿勢があった。

 白磁とは、浅川の言葉を借りると、穏やかな膨らみを持ち、本当に温かみのある人肌のような焼き物である。では浅川が称された「白磁の人」とは、どんな人か。浅川は、初対面の人にも微笑みを絶やさず、自然な温かさと穏和な表情で接するような人であった。植物も鳥も焼き物も含めて全てが自然界の一員であり、友であるとした。対象がどんなものでも平等に接する浅川の人柄が、朝鮮人の心を開き、日本人を憎んでいた朝鮮人からも厚く信頼されることになったのだと思う。浅川のように、そこにいて見つめているだけでも、心の柔らかさや温かみを感じられるような人のことを、信頼と尊敬する気持ちを込めて、「白磁の人」と呼んだのだろう。

 白磁へ情熱を注ぐ一方で、浅川は、以前地元の林業署で働いていたことを生かして、荒れ果ててしまっていた朝鮮の山を、緑に戻す仕事も行うことになった。なぜ山を緑にすることにも魅力を感じたのか。それは、山の緑の美しさを回復することと白磁の美への追究が、美への強いこだわりという共通点でつながっていたからだと思う。彼は、この二つの仕事を一生の仕事として、朝鮮人になりきって、やりきることを決意した。私は、その意志の強さにも感銘を受けた。彼の強い意志は、朝鮮語を覚え、朝鮮の民族衣装であるチョゴリ・パジを身にまとって朝鮮人の社会に溶け込み、目標を達成させるためには努力を惜しまなかった姿勢にも表れている。

 最も印象に残った言葉がある。浅川の人柄に影響を与えたと考えられ、浅川がまだ幼い頃に祖父に言われた次の言葉である。

「いいか、巧。人間の仕事に貴賤などない。人種などというものにも上下はない。人の価値はな、どう生きたか、にあって地位や金銭ではどうにもならん。働いて、本を読んで、自然を大事にする。それだけのことだ。」

誕生する前に父を亡くした浅川にとって、祖父の存在は大きなものだったと思われる。この祖父を浅川は慕い、似ているとよく言われていた。人種や国に関係なく、人々がより良い生き方をし、自然を大切にして共存していく。このような考え方が、浅川の生き方の原点だった。

 浅川のように、国境を越えてどんな人に対しても平等に接することは、きっと簡単なことではなく、実際に出来ている人は、大人でも少ないのではないだろうか。しかし、偏見や先入観を持たず、誰に対しても分け隔てなく接すれば、きっと信頼される人になれ、自分の心も穏やかになると思う。また、自分のやりたいことを見つけ、突き進んだ浅川の姿を、私はうらやましく思った。彼のように一生をかけて打ち込めるものを、私も見つけたい。そのためにも、自分の感性を信じて磨いていき、物事の本質を見極められる目を養っていきたい。そして、浅川のように、見つけた夢を実現するために、辛いことがあってもくじけずに乗り越えたい。

 

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●読んだ本「白磁の人」(河出書房新社)
江宮隆之・著

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