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「人間は運鈍根だ。」ツヨシの父さんが言ったこの言葉が頭にこびりついていた。運をつかむこと、打たれ強いこと、根気よく努力を重ねる根性があること・・・この三つが人生をよりよく生きるために大切な三つなのだという。その言葉のもつ説得力に私はうなずくばかりだ。なぜなら、私自身、何かにチャレンジして努力を積み重ねた時は、かなり高い確率でよい結果を得ているからだ。自分にきたチャンスをつかんで「運」、一生懸命努力し「根」、多少のことにはへこたれない強さ「鈍」を持っていれば、どんなことにも前向きに人生を切り開いていけると、私は期待し、信じている。しかし、この本を読み進めるうちに、どんなに努力を積み重ねても、与えられた運命によって、無残に夢を絶たれた人たちがいたことにショックを受けた。
この本に登場する「春おばさん」は、戦争によって大切な人を二人も亡くしている。そのうちの一人は、春おばさんを想い、春おばさんの絵を何枚も描き続けた村田先生という人だ。「ぼくは必ず生きて帰ってくるから。そして、君の絵を何枚も描くから。」そう言い残して戦地へと向かった村田さんのその約束は、ついに果たされることはなかった。村田さんは生きて帰ろうと最後まで懸命に努力し続けたであろうに、自らの運命を変えることはできなかったのだ。村田先生ばかりではない。戦争の時代を生きた、数多くの人たちは、いくら努力を積み重ねても自分に押し寄せてくる悲しい運命に逆らうことはできなかった。「無言館」に収められている絵には、そんな「声にできない、声に出すことすら叶わなかった深い悲しみ」が存在するのだと私は思う。「運鈍根」なんて、やっぱり気休めにしかならないのでは・・・。「戦争」という大きな悲劇を前に、私は、無力感に襲われた。
しかし、一方で、私はこの本の中に、温かく穏やかな春のイメージと、希望の光を見出してもいた。この春のような明るさに、私は作者の前向きなメッセージを感じるのだ。作者は戦争という重い事実を突きつけながら私たちに何を伝えようとしているのだろうか。
その答えは最後にあった。私たちは「大きな運命に逆らうことはできなかったけれど、与えられたチャンスの中で精一杯生きた人たち」の意志を受け継いで、前向きに一日一日を大切に生きなければならないのだ。生きていること自体、それだけでたくさんのチャンスに恵まれている。戦争のない平和な時代を生きている私たちはそのチャンス「運」を自分たちの努力によって招き寄せることができるはずだ。六十年以上前、夢を抱き、精一杯努力して叶えられなかった人たちの思いを受けて、多少の困難にめげずに、打たれ強く、一歩また一歩と前に歩もう。それが私たちに伝えられたメッセージなのだと私は思う。
夏が来るたびに、私は無言館を思い出すだろう。そして、あらためて心に刻もう。「人間は運鈍根。精一杯生きるぞ。」と。
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●読んだ本「春さんのスケッチブック」(汐文社)
依田逸夫作・藤本四郎絵

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