■第55回/高等学校の部最優秀・内閣総理大臣賞受賞作品

「カレンダーから世界を見る」
  愛知県 金城学院高等学校 2年 鳥山 みわ

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 私の部屋には、紙のカレンダーがない。それがいつからだったかはわからないが、少なくとも小学校くらいまでは、カラフルに彩られた楽しげなカレンダーが、壁やら本棚の横やらに掛かっていたように思う。だが今は、電池さえ交換してやればいつまでも時を刻み続けるデジタルカレンダーと、網目状のカバーをずらすだけで永遠に「新しい月」を迎え続けることができるアルミ製の万年カレンダーが、机上に置いてあるだけだ。

 それで不便だったことは一度もなかった。まして、「無機質で寂しい」などとは少しも思わなかった。無駄なゴミも出ないし、合理的で良いじゃないかとさえ思っていた。

 この本を読んで、その考え方はがらりと変わった。カレンダーってすごい、と心から思った。今までカレンダーをないがしろにしていた自分は、なんてもったいない時間の過ごし方をしていたのだろうと、悔やんだほどだ。

 世界には様々なカレンダー、つまり暦が存在するということを、私達は知っている。だが、実際に私達が使用している西暦以外の暦を見たことがあるという人は、かなり少ないのではないだろうか。この本で初めて西暦以外の暦を見た私は、愕然とした。見たこともない月の名前がある物や、年号の所に「5766」年と書いてある物。数字らしきものがまったく見られず、絵だけで一日一日を表している物。さらには、見方すらよくわからない物。それらはすべて同じ時間を表しているはずなのに、まったく違うものに見えた。

 そう思った時、「私は普段、西暦という窓を通して時間を見ているんだ」ということに気付いた。そしてもちろん、その窓が違えば、違う時間が見えてくる。違う暦を見れば、その暦を使っている人々の時間をのぞき見ることができるのだ。

 暦の違いは文明の違い。他の暦に接することは、他の文明を知ることに繋がるということを、この本は教えてくれた。だとしたらカレンダーは、物淒い破格の安値で世界旅行に行ける夢のチケットである。

 カレンダーは、私達の日常にも新たな切り口を作ってくれる。私達は季節の移ろいを、日付はもちろんだが、草花や虫、風のにおい、太陽や月の様子から感じ取る。しかし私達現代人は、そういった時の流れに対するアンテナの感度が、かなり鈍ってきているのではないだろうか。幼い時は沢山外で遊んで季節を肌で感じていても、成長し、そんな事に気をまわせなくなれば、その感触も薄れてしまう。

 暦は、物によって様々だが、月齢や、その月の草花が書いてある物も少なくない。毎日日付をチェックする中で、ああ、そういえば今日は満月か、もうそろそろあの花が咲くころだな、と知ることができれば、もうその日はただの「日付」ではなくなる。その日だけが持つ色の付いた、かけがえのない時間となるのだ。

 当然のことながら、私達が過ごす毎日に、一日として同じ日はない。それどころか、一分、一秒たりとも同じ時間は存在しない。それでも私達は、同じような日ばかりが続いているように感じたりする。出来事として特別な事がなければ、その一日は私達の記憶の中で「意味がなかった日」のフォルダにしまわれてしまう。そんな哀しい運命をたどる時間に、カレンダーは色を付けてくれる。現代の喧噪にもまれ、一日一日が特別であるということを忘れがちな私達の代りに、そっと小さなフラッグを立ててくれる。

 もちろんそのフラッグも、暦によって違う。その良い例として、この本では祝日が拳げられている。祝日は、その国の歴史的なものや宗教的なものに基づいてつくられる。つまり、祝日自体が、その国や地域の歩みを表しているのだ。それは、よそ者がその国の背景を知るだけでなく、その暦を使用している人々が自分の住む地域をより深く理解する上でも重要な役割を果たしている。「自国のことを自分達がよく知らない」という状況が危ぶまれ、自国の文化への理解と知識が求められる今こそ、カレンダーから学ぶべきことは多いのではないだろうか。

 私達は、ものを見たり、判断する時、どうしても狭い窓から見てしまう。狭い窓から見る所為で起きてしまう諍いも少なくない。それは、世界という舞台でも同じことだ。

 自分達のものさしを捨て、寛大な心で物事を見つめるというのは、そう簡単なことではない。だが、相手の立場を少しでも理解し、相手の視点を経験してみるだけで、両者の距離はぐっと短くなる。カレンダーは、そんな窓として、私達を他の文化に触れさせてくれ、そして自分達の文化に気付かせてくれる。日々を豊かにしてくれる窓なのだ。

 違った窓の向こうでは、今日も、今この一瞬も、違う時間が流れている。

 そう思うと、今自分が過ごしているこの時間が、とても愛おしい物に感じた。

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●読んだ本「カレンダーから世界を見る」(白水社)
 中牧弘允・著

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